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緩やかで甘美な時・空間で頂く ~手打ち蕎麦 かね井~ vol.1 前編 

平日が休み。
特に予定は決めていない。
そんな日の午前に、少なくとも一度は頭をよぎる選択肢がある。
雨が降っていれば、尚更だ。
「今日は…、かね井に行こうかな」。
かね井とは、私が京都で最も好きな蕎麦屋である手打ち蕎麦 かね井のこと。
土日祝日はお客さんで混み合っている日が多いため、平日のしかも雨の日という、外出する人も少なくてなおかつ外出するのもちょっと億劫な時を狙うのである。

crowd_islet.jpg

もちろんそんな日だからといって、必ずしもかね井に行くわけではない。
でも実際に腰を上げる日には、こころ踊るような静かな高揚感を抱く。
もう何度も訪問しているにもかかわらず、である。




車で行くのであれば、大徳寺南側の北大路通り沿いにあるコインパーキングに駐車することにしている。
大徳寺とはやたらと拝観料を徴収されることで有名な、かの一休和尚で知られる寺院だ。
コインパーキングは、ビデオ・DVDレンタル店の二軒東隣にある。
そしてかね井に至る智恵光院通りは、大徳寺南門のちょうど真南から、あるいはビデオ・DVDレンタル店の西側(写真だと、右側から)から始まる。

大徳寺前 大徳寺南門前から

他にもコインパーキングはあるのだけど、諸々の理由を鑑みると、ここが一番利便性が高いと思う。
だからとりわけ遠方から初めてかね井に行かれる方には、ここをお勧めしたい。


大抵の場合、店前に到着するのは11時半前。
でもまだ開店していない。
下の写真のようには、暖簾が出ていない。

手打ち蕎麦 かね井 店先1

ふふふ。
いつもこうなのだ。
「昼11時半すぎ」と明記されているこの店が開くのは11時35~45分であることも、それを知らない他の開店待ちのお客さんが不安げな表情を浮かべているのも、いつものことなのである。

私の前か後ろに一組ないし二組の人たちが並ぶこともある。
「ほんまに今日やる(店を開ける)んかいな…」と、彼らが心配そうにささやき始める。
「いつも少し遅れて店開けはるんですわ」と、振り向いて私が言う。
「へぇ~」と、彼らが不安が半分だけ失せた様子を見せる。
これもまた、いつものことである。

一昔前は、待ち合わせや集合時間に遅れがちだったりその時間になってようやく準備が最終段階に入ったりする人、あるいは行事の開始時間の遅れなどを指して、「京都時間やなぁ」とよく言っていたものだ。
今はどうなのだろう。

しばらくしてから奥様が出てきて、暖簾をかける。
「いらっしゃいませ」「こんにちは」。
軽い会釈を返して入店し、靴を脱ぐ。
銘銘が思い思いの場所に腰かける。
でも、すぐには始まらない。
まだ奥様は開店に伴う準備をされているし、ご主人はご主人でまだ心持ちゆったりとされている。
だから結局、こころの中でつぶやいてしまうのだ。
「京都時間やなぁ」。

でも実をいえば、かね井のスロースタートなど全然気にならない。
いや。
京町屋の趣を色濃く残す屋内が<それをu>気にさせない。
ここには「京都」という以上の、ある種の時空間が流れている。

手打ち蕎麦 かね井 坪庭 手打ち蕎麦 かね井 この日ある愉しさ

広い土間、板の間、畳の間、通り庭、縁側、枯山水のある坪庭、そして丁寧で誠実なのだけどどこかユルやかな御主人と奥様が「京」を体現し、さらにチクタクと鳴るアンティークな時計音が「古き」と「郷愁」を彩る。
流行の「和モダン」のようなわざとらしさや白々しさ、凡庸さはない。
京町屋本来の風情が極力そのままで残された佇まいだ。
夏には、金魚蜂の中で心地良さそうに泳ぐ金魚と風鈴の音が涼しさを演出してくれる。

手打ち蕎麦 かね井 金魚鉢近景

ここにいると、時の流れの慌しさや日々の喧騒をしばし忘れてしまう。
膝を崩して、畳に後ろ手を付いてしまう。
そうして、いつの間にやら深くゆっくりとした呼吸をしていることに気付かされる。
酒呑みさん達もまた、肩の力を抜いて「ちょいと一献」「もう一献」とばかりに愉しまれている。
同じ酒でも、ここで呑めば格別に旨いのだろう。


こんな快適な時空間ならば、余程のものを食べなければ美味しく感じないなんてことはない。
美味しいものはより美味しく感じられるし、多少「これはどうかな?」と判断しかねるものであっても「美味しい」と感じたくなる心理が働く。
何を注文しようか。

手打ち蕎麦 かね井 できますもの
手打ち蕎麦 かね井 できますもの2
(季節によって、お品書きも少し違うのだろうか)

ここでいつも悩んでしまう。
開店前にその日に頂くものを決めていても、いざお品書きに目を通すとどれにするか迷ってしまう。
上で「余程のものを食べなければ」と言っておいて何だけど、仮にこの蕎麦屋の人々や時・空間のことが好きではなかったとしても、「料理だけはやたらと旨い」と舌鼓を打てそうなものが目白押しだからだ。

注文を終えた後、蕎麦屋では酒を呑まない私は香ばしい蕎麦茶やお通しの揚げ蕎麦(蕎麦チップのようなもの)で料理が来るまでの時間を過ごす。

手打ち蕎麦 かね井 そばの揚げたん

屋内を見るともなく見たり、外の坪庭を見たり。
あまり音を立てずに、小走りで働かれる奥様を見たり。
何かを考えるともなく考えたり。
イメージを膨らませるともなく膨らませたり。

そうこうしている内にほら。
料理がやってきた。

・だし巻き

混雑時には丁重に断られる、熱々の出汁巻き。
少しだけ出汁に浸された状態で供される。
中身は半熟で留められていて、箸で持つと崩れそうな柔らかさを誇っている。

手打ち蕎麦 かね井 だしまき

一切れを半分に切り、口に入れる。
フワフワでプルルンとした食感。
この感じ、好きな人が多いんだろうな。

甘みはほとんど無く、適度な塩分の利かせされたこの出汁巻きを噛む。
ジュワッ。
中から出汁が潤沢に溢れ出す。
「旨いんだな、これが」。
昔のビールのCMで和久井映美が言っていた台詞を思い出す。
ここに白醤油があしらわれた大根おろしを少しつけると、味わいに複層性がもたらされる。

何もつけずに頂くのと、大根おろしをつけて頂くのを交互に繰り返す。
温度、食感、味わい。
その全てによって、舌という以上に口全体が喜んでいるのがわかる。
「蕎麦屋では呑まない」「日本酒の味を覚えない」との決心が揺らぎそうになる。
おいおい、勘弁してよ。

・そばがき

「ふんわり、ややザラザラ」な食感の粗挽き蕎麦掻。
黒い殻は混ぜられていない丸抜きである。

手打ち蕎麦 かね井 そばがき

しっとりと潤った甘みがあり、漂わせる豊かな香りには澱みが無い。
いや、澱みが無いだけではない。
通常の蕎麦掻とは異なる微細な「何か」を漂わせている。
「何か」が何なのかはわからないが、それが差別化指標となっているように思える。

しかし、それにしても旨い。
「やはり蕎麦掻はこうでなければ」と思わされるような、私にとっての原点でもある。

・鴨ざるそば(抜き)

鴨ざるそばの蕎麦が抜かれ、鴨汁だけが供されるもの。
お品書きには記載されていないが、「鴨ざるの抜き」と頼めば誰でも頂ける。
1100円。

手打ち蕎麦 かね井 鴨ざるそば(抜き)2

通常、鴨汁はどのような味の構成だろう。
少しばかりの強弱や濃淡の違いこそあれど、醤油(またはかえし醤油)と鴨脂の主張が強い点で共通するはずだ。
しかしこの鴨汁は、醤油も鴨脂も薄い。
醤油はその濃度が抑えられ、旨味だけが残されている。
鴨脂も、量としては決して少なくないはずなのだが、甘みは限りなく控え目で、風味だけを響かせている。
何故か。
一口瞭然。
本枯れ節や真昆布がベースだという出汁と、三位一体を成すためだ。
音域を合わせられたアンサンブルが、美しくも深い叙情的な旋律を奏でていく。

この品の良さ、この繊細さ、そして何よりもこの懐の深さ。
滋味という滋味がじわりと広がり、深まっていく。
はっとするような旨さだ。
初めて口にした際の、脊髄が震えるような衝撃を今でも覚えている。

なお、鴨のロース肉も当然ながら旨い。
適度な硬さがあって程良い噛み応えを誇り、品良く深い旨味が噛む度に滲み出る。


これら三品を一度の訪問で同時に頂いたことはない。
もしそうすることができたなら、もはや蕎麦切りを頂くまでもなく店を出ることができるだろう。
静かな興奮と得難い満足感を胸にして、帰路はさぞかし華やいでいるように感じられるだろう。

でも、ここは蕎麦屋。
しかも、他ならぬかね井だ。
蕎麦切りを頂かずして帰ることなどできない。
構わないよといわれても、そうはできない。

ここには毎訪問時に必ず頂く蕎麦がある。
迷いなく頂く蕎麦がある。

後編に続く)

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COMMENT

空いていて こちらの希望通り
鴨汁ヌキと蕎麦掻を同時に出してもらえるとすると・・
何度も食べて厭きた?酒肴は止めて 蕎麦掻を二人前頼んで
(飲んでみたい酒の種類の割りに 肴が弱い。)
鴨汁蕎麦掻として食べれば 酒が進むだろう。
蕎麦を食べなくても 満足して帰れるかもと思いました。(笑)

誘惑に負けて公共交通機関で行かれる蕎麦屋が
現れん事を・・・v-8

11時30分ごろ=早く開ける事があるなら「ごろ」の
意味合いもわかるんですが 毎回45分ぐらいなら
45分とすべきだと何時も思います。
15分早く起きればよいだけなのです。v-248
2010/04/11(日) 10:19:32 | URL | 辛汁 #phHF4o9M [Edit]
一度切り訪れただけのお店です。

鴨汁の重さがチョット苦手だった印象だけが残っています。
二度三度訪れなければ本当の良さは解らないのかも知れません。
お写真、綺麗ですね。金魚鉢が印象的です。
2010/04/11(日) 22:42:17 | URL | エノさん #- [Edit]
辛汁さん、こんばんは

>鴨汁ヌキと蕎麦掻を同時に出してもらえるとすると・・
>蕎麦を食べなくても 満足して帰れるかもと思いました。(笑)

あはは。
しかしこの単純な頭では思いつきもしませんでした。
鴨ヌキ&蕎麦掻、今度どこかの蕎麦屋で試してみます。
必ず。

>誘惑に負けて公共交通機関で行かれる蕎麦屋が
現れん事を・・・

いやはや。
どのみち、泥酔まではいかないにしても、蕎麦を自分なりにしっかり味わったり後にレビューを書いたりするための最低限の集中力・記憶力が怪しくなるまで呑んでしまいます。
一旦呑み始めてからの意志の弱さには自信がありますので…。

>毎回45分ぐらいなら45分とすべきだと何時も思います。 15分早く起きればよいだけなのです。

いやいや~。
かけても良いですが、もし開店時間を11時45分とすれば、今度は12時前ごろ開店になってしまいますよ。
ほら。京都時間な人って、そうじゃないですか。
15分早く起きれば、いつもより15分のんびりするだけというか。

でも何といいますか、そういうかね井のデジタルじゃない部分は、昨今のせっかちで何かとピリピリとした私たちが忘れてしまった大事なことも含んでいるようにも思っています。
2010/04/11(日) 23:16:44 | URL | 京瑠璃 #3KrfhFaQ [Edit]
エノさん こんばんは

>鴨汁の重さがチョット苦手だった印象だけが残っています。

えっ?!重かったのですか?!
ふむ。
きっと今とは味付けが異なったのでしょうね。

>お写真、綺麗ですね。金魚鉢が印象的です。

いや~、何せあの蕎麦屋ですからね。
下手クソな私でもあれですから、エノさんがちょっと本気を出されれば、それはもう本当に素晴らしい写真になることは間違いないですよ。

2010/04/11(日) 23:23:34 | URL | 京瑠璃 #3KrfhFaQ [Edit]
あれっ?
「お蕎麦が出てこなかったぞ?」と思っていたら、今回は「後編に続く」だったんですね。 ^^

金魚蜂のある写真も素敵(夏の風鈴の音を、思わず想像してしまうくらい♪)ですけど、お庭に面した縁側の写真が1番印象的です。 ^^
緑も素敵だし、お庭の奥にあるモノ(黒い感じの・・)は照明なのでしょうか? @_@
縁側の青い布の上に置かれている一輪挿しも気になるし・・・
あと、メニューの「できますもの」というのも、なんかイイなぁと思いました。

「少しだけ出汁に・・・」というダシ巻き玉子は、今後参考にします♪
2010/04/13(火) 21:16:34 | URL | こま #JK/.nkhc [Edit]
こまさん おはようございます

>緑も素敵だし、お庭の奥にあるモノ(黒い感じの・・)は照明なのでしょうか? @_@

しまった!それを意識したことがありませんでした…。
私は昼にしかこの蕎麦屋に行ったことがないのですが、夕方(この店は19時まで)だとあれが坪庭にち控え目な明かりを灯し、これまた渋いものになるのでしょう。

>あと、メニューの「できますもの」というのも、なんかイイなぁと思いました。

ええ。
私もこまさんと同様に「なんかイイなぁ」と。
ちなみにこの記事のタイトルは、初めは「かけますもの」にしようかとも考えていました。

>「少しだけ出汁に・・・」というダシ巻き玉子は、今後参考にします♪

百聞は一食にしかず。
是非一度召し上がられんことを。
ふふふ…。
2010/04/14(水) 04:15:23 | URL | 京瑠璃 #3KrfhFaQ [Edit]
確かにっ!
「すかしだけダシに・・」のだし巻き玉子は、確かにそぉだなぁ♪
見て想像するだけではなく、まずきちんと自分で味わって食べて・・ですよね。 ^^
おすし屋さんの玉子とか、日本料理屋さんで出される「ダシ巻き玉子」って、関東(東京・神奈川しか知りませんけど。)と関西で違うもんなぁ。

家庭でも、玉子焼きって色々ありますけどね! >_<
2010/04/14(水) 09:03:07 | URL | こま #- [Edit]
こまさん おはようございます

>見て想像するだけではなく、まずきちんと自分で味わって食べて・・ですよね。 ^^

いえいえ、そのようにえらそうなことは申しません。
ただ単純にこまさんにもかね井をお勧めしたいのと、実食される方がより好影響を受けられるであろうことを想像してのことです。

>おすし屋さんの玉子とか、日本料理屋さんで出される「ダシ巻き玉子」って、関東(東京・神奈川しか知りませんけど。)と関西で違うもんなぁ。

私はその逆で、関西の出汁巻きしか知らないです。
関東のものはこちらよりも甘めの味付けがなされたものが多いという、獏としたイメージ。
2010/04/15(木) 05:51:41 | URL | 京瑠璃 #3KrfhFaQ [Edit]

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