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白く浸透す ~あんばい~ vol.1  


mer1.jpg

駅の中(エキナカ)、あるいは駅の近く(エキチカ)。そこにはどんな飲食店が多いだろうか。
ハンバーガーショップや牛丼屋、中華料理店などの大型チェーン店だろうか。大衆食堂だろうか。居酒屋だろうか。カフェか喫茶店かもしれない。
いずれにしても、そこが片田舎の駅ではない限りは、手早く作れる料理を多く供することを最重要視するような店が多くなる。駅構内や駅周辺には急いでいる人たちが多いし、そもそも人の数自体が多い。

しかし同じような条件下の置かれているようでいて、少し異なるケースもある。
駅の近くであっても、もしそこが閑静な住宅街の一角であれば、当然ながら通りには人の往来が絶えないという程の賑わいはない。つまり駅の近くでありながらも、料理の質を重視し得る環境下に身を置くことも可能だ。
阪急神戸線は夙川駅、そこから徒歩1分の距離で営まれている蕎麦屋あんばいはその一例であり、同時に好例なのであろう。

あんばい 店先2

もう4~5回ほど訪問しただろうか。



外観はイタリアンやフレンチ、あるいは洒落たカフェのよう。
美容院やパン屋さんでも良いし、むしろそれらであった方が蕎麦屋というよりも信憑性が高いであろうデザインと色調だ。
毎日この前を通っていても、ここが蕎麦屋だと気付かれない人もいるかもしれない。
でも営業時間中は「十割蕎麦」と書かれた看板があるため、別段わかりにくいというわけではないけれど。

          あんばい 店内2

あんばい 店内

店内に入ると、壁から天井にかけてがほぼ白一色で統一されていることに気付かされる。あるいはそれを思い出す。
入り口すぐ右の壁にはそこをくりぬくようにして作られた陳列棚が4つ程あり、目線より少し下の棚にはシャンパングラスを模ったような陶器がある。
昼や夕方には照明が落とされ気味で、外からの自然光を頼りとしている。
これら全てを併せ、店内はスペインのアンダルシア地方の、イスラム様式を色濃く残した建築物を想起させるものがある(無論、それが意識された意匠なのかどうかは知らないけど)。

また、自然光を主な光源とする店内を「エコ」「エコにも良い」などと表現することは可能であろうか。
いや、違うな。
空間をトータルに感受すれば、むしろそこに流れているのは「エコ」とは正反対である「贅」のひとときであることがわかる。現実の喧騒から逃れた緩やかさがある。

どこかの座席に適当に腰掛けると、いつも同じ花番さんがおしぼりと蕎麦茶、お品書きを持ってくる。
この花番さん、ちょっと面白い。
あと一歩で「愛想が無い」とも評されそうな抑揚のない静かなトーンと間の取り方、クールともメランコリックともいえる表情が独特でありながらも、質問に対しては慎重に言葉を選びながらの説明をする。
その静かな奇矯さと物憂げな表情には、黄昏の情景を思い起こさずにはいられない。

お品書きは4~5枚供される。その内の2枚がこちら。

あんばい お品書き1

あんばい お品書き2

こちらの2枚はいわば「レギュラーメニュー」。これだけ見ると、蕎麦の種類は多いものの一品料理やお酒がやや少なめに思える。
しかし他の2~3枚の方に、期間限定だか夜限定だかで、より多くの蕎麦や酒、一品料理の名が記されている。
その品数の多さには脱帽させられるほどだ。

花番さんが厨房に注文の品を伝えにいくと、残された自分の周囲に奇妙な違和感が浮遊していることに気付かされる。これは初めて訪問した際でもそうだったが、今でも変わらない。
そりゃあそうだ。だってアンダルシアを思わせるような(でも実際は違うはずの)テイストな内装の中、注文を取るのはあたかも普通の人間とは異なる生命のバイオリズムを有していそうな花番さんであり、その後に待つのは蕎麦の到来なのだから。
この違和感は寛ぎや安らぎのひとときを与えない一方で、愉しめる範囲での刺激となっているのかもしれない。

時間の経過によって違和感が薄らいでくる頃、料理が供され始める。

・だし巻(半分)

そのまんま、出汁巻きである。

あんばい 出汁巻き(半分)

多くの人に親しまれそうな大衆的甘さを有し、おろし醤油との相性も悪くない。
味醂が利いたものをあまり得意としない私には必ずしも歓迎できるタイプではないが、多くの支持を得ていそうだと想像できる。
ただし私が頂いたものは、少し作りが雑であったにも思える。味はともかく、食感が家庭的に思えなくもない。
私がこれを頂いたのは、西宮さくら祭りの真っ最中の日曜日。駅にも駅の周辺にも人が溢れかえっているような日で、店も大混雑だったから、もしかすると雑になったのかもしれない。

・そばがき

細かく挽かれた粉がベースで、それらが結晶となったような「ダマ」が少し混じっている。

あんばい そばがき

あんばい そばがき2-1

黒い殻を取り除かれた「抜き」であるが、赤色のほぞは目立つ。

口にしてみる。
湯気が立つような熱々で供されないこともあってか、微粉蕎麦掻によくある里芋のような「むわっ」とくる風味は控え目だ。
そういった意味では、蕎麦の実のフローラルな香しさをこれはこれで堪能させるのかもしれない。

・鴨汁

冷たい蕎麦を熱い鴨汁で。蕎麦は後述する2種類の内の1つを選択できる。

あんばい 鴨汁そば1

鴨汁は鴨のモモ肉に白ネギ、三つ葉と汁で構成されている。

あんばい 鴨汁そば3

私流のイメージ言語でいえば、「ドチャっと甘濃い」味わいを有している。醤油感が濃く、それ以上に味醂(+鴨脂)の甘みが強い。
この甘みが苦手な方は塩を別で注文し、適量を投入して混ぜると良いだろう。幾分か調整され、食し易くなる。ただし「甘しょっぱい」という変な味にならない程度の量にとどめるべく、注意を払わねばならない。


そばがきはともかく、だし巻きや鴨汁は思いのほか、何というかこの店の内外装で抱くイメージとは多少のギャップがあるのかもしれない。大衆蕎麦屋的な甘さや濃さを有している。
「奥行き」を垣間見せる味わいであった方が、この蕎麦屋には似合うように思えなくもない。

まあ良い。何といっても、肝要なのは蕎麦の質だ。

・田舎

黒殻も挽き込まれた十割田舎蕎麦。

あんばい 田舎

太めで長め、啜り心地や喉越しが存外にスムースであること、噛み応えがあること、そして割と粗く挽かれているあることなど、後述する「せいろ」との共通項が多い。
噛み進める内に甘みも広がり、それに随伴するように穀物感がふわりと漂い始める。
旨い。

あんばい 田舎2

そしてこれならば、田舎等の黒殻が挽き込まれた蕎麦を苦手とする人もまた、さほど苦もなく召し上がられるのではないだろうか。
でも逆に言えば、もっと黒い殻を混ぜられた田舎蕎麦の、あの「くぅー!田舎!!」という穀物感の強さはない。
さりとて少しだけ黒い殻が混ぜられた粗挽き蕎麦が目指される味わいとも異なる。
つまり「せいろ」との差別化がもっと明確に計られていてほしいとも感じる。
というか、「せいろ」がもっと旨いだけなのかもしれない。

・せいろ

栗色の星が混じった太め長めの十割蕎麦。スノーホワイト色が美しく綺麗で、思わず見とれてしまうものがある。
いや。本当は薄い翡翠色なのだが、白い内装に合わせて蕎麦も白いと思い込みたくなる。

あんばい せいろ2

口に含む。硬めの噛み応え、スムースな啜り心地・喉越しがある。
粗めに挽かれた十割蕎麦とは思えぬ諸要素、つまり粗挽きないし粗めの蕎麦がその味と香りを最大限に引き出すために引き換えにするはずの諸要素が、そこにあるということだ(細かく挽かれた十割蕎麦に「コシ」があるのとは訳が違う)。
しかも夏は冷水でシャキっと冷たく締められていることもあり、極めて凛然とした食感だ。

でも何より驚かされるのが、噛み進める内に蕎麦の甘みや香りが、所狭しと口中・鼻腔に充満していくことだ。とりわけ、甘みは清流の水の如く澄んでいる。
本来は並び立たせることは極めて難しいはずの、硬くてスムースな食感と強く澄んだ甘み・香りがいずれに偏ることなく共存しているのである。
凄い。そして、はっきり言って相当に旨い。
特に夏場に頂くこれは最高だ。

あんばい せいろ3

ところでこの秀逸な甘みは、蕎麦粉と水が一蓮托生でそれを織り成しているように感じられる。
水?そうだ。この一帯は「宮水」が有名であった(酒蔵も多い)。
聞けば宮水は、比較的硬度が高いのだそう。ということはこの蕎麦のつながりの良さと確かな歯応えは、蕎麦の産地や蕎麦打ちの技術のみならず、水の硬度も関連しているのであろうか。
そんないかにも素人的な想像も膨らませてしまう。いや、この蕎麦に想像させられる。

どうであれ、私はこの蕎麦が食べたいがために何度もこの蕎麦屋に足を運んでいる。

・蕎麦つゆ、薬味等

蕎麦つゆはやや甘めの味わい(だし巻き、鴨汁、蕎麦つゆを頂いてわかったのは、味醂の甘さをしっかりと利かせるというベクトルを有すこと)。関西に多いタイプだ。

山葵は辛味が抑え気味で、程々の甘みとフローラルな香りが楽しめるタイプ。箸先に米粒大ほどの山葵をつけ、蕎麦と共に頂きたい。
また、別途注文した塩は粒子が程良く細かく、角のない辛さも甘みも良い。イメージとしては蕎麦一口辺りに6~8粒ほどかけ、蕎麦に塩味を付けるのではなくあくまで甘みを引き立てる程度に留めるのが旨い。

山葵も塩もそれぞれ異なる「せいろ」とのアンサンブルを奏で、甲乙付け難い魅力を放っている。それは蕎麦が良い証拠であり、同時に山葵と塩が良い証拠でもあるのだろう。

三重県立総合センター 竹

白く美しい店内、そして白く極めて旨い「せいろ」。どこまでも白が澄み渡り、冴え渡っている。
せいろを頂いた日には一定以上の満足感、そして活力となるような刺激を与えられ、頂かなかった日には「やっぱり食べれば良かったな」と少し後悔してしまう。
私にとってあんばいはそんな蕎麦屋である。

(最終訪問、2010年4月)

○ あんばい

住所:兵庫県西宮市相生町6-7-101 (地図
営業時間:11:00~14:30 17:30~20:00
定休日:月・火の夜営業(祝日の場合は営業)
電話番号:0798-72-4157
備考:禁煙
    「小学生低学年以下のお子様は入場をご遠慮願います」とのことです
    駐車場無し
   
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COMMENT

お店のシステム
新規でありながら 書き始めの日付で
順番が逆になるんですね。

花番さんについては 賛否両論が渦巻いています。
お待たせしましたとか ありがとう御座いますの言葉が無いので 気分が悪いとか?

聞いても 的確すぎて 事務的とか

全部の席を一人で問題なくされるのだから・・ とても優秀です。

実は このお店の事は 殆ど判りません
美味しければよいのだが・・・

この花番さんも長いけれど 素性も不明
時間があれば 店を見渡せる位置に
何時も居られますね。
親族かな?
プライベートを尋ねられない キリリと
した風景を背負って居られます。

卵焼きと だしは 身についた好きな
味と どうしても 何処に行っても違うことが 多いですが 仕方が無い!
 
蕎麦だけの感覚については 純粋に
評価が出来ると思います。

何度行っても ブレない 通いたい店です。

花番さんに 毎度ありがとう御座いますと、言わせてしまう常連になってみたい

2010/06/03(木) 20:12:32 | URL | 辛汁 #- [Edit]
ご指摘ありがとうございます、空汁さん
修正いたしました。
「6月3日」と今日の日付を入れたつもりが、5月になっていましたね…。

>花番さんについては 賛否両論が渦巻いています。

でしょうねぇ。
私はそのどちらでもないか、あるいはそのどちらでもあります。
彼女に限ったことではありませんが、ちょっと店員の愛想が無いという程度で腹を立てる=美味しいものの美味しさが半減することは何だかシャクですから、その愛想の無さを楽しむ=肴にすることを心がけています。
心がけるというのも変ですが、まあネタにするということですね。

>実は このお店の事は 殆ど判りません

そういえばご主人がどこで修行されたのかとかどこの地方の蕎麦を使っているのかとか、ついでに辛汁さん的関心事に照らし合わせればどういう石臼でどう挽いているのか等、あまり知られていないですよね。

>この花番さんも長いけれど 素性も不明

ご主人の娘さんか親族の方だとどこかで読んだような記憶があります。
不確かな記憶ですけど。

>卵焼きと だしは 身についた好きな
味と どうしても 何処に行っても違うことが 多いですが 仕方が無い!

ええ。こればかりは仕方がないですね。
たとえそれらが自分の好むベクトルを有していなくても、地域性などを鑑みてそれで正しいと思えば、批判などしないようにしています。
まあ今回はちょっと店の内外の印象とは異なる気もしますが、それ自体は批判ではありません。

>蕎麦だけの感覚については 純粋に
 評価が出来ると思います。

おっしゃるとおりですね。
せいろのあの白い蕎麦は本当に素晴らしい。






2010/06/03(木) 22:19:49 | URL | 京瑠璃 #3KrfhFaQ [Edit]
京瑠璃さん、こんにちは。

最初の1枚目の写真を見た時は「あれっ? ココって・・・日本? 外国?」と思ってしまいました。 ^^:
京瑠璃さんのお話や店内の写真を見て、スグに謎は解けましたけど。 >_<。。
2010/06/08(火) 09:50:08 | URL | こま #- [Edit]
こまさん、こんばんは

1枚目の写真は「おフランス」の風景です。
ブログを始めてから、どうにも「全然関係の無い写真も貼りたい症候群」を怠ってしまったようですね…。
あまりにも紛らわしい写真だけは回避するよう努めます。
2010/06/09(水) 00:21:27 | URL | 京瑠璃 #3KrfhFaQ [Edit]

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蕎麦、中華そば、側(そば。つまり私たちの身近にあるもの)等、ソバ全般に関して。

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