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シナジェスティックなテイストを ~蕎麦 その字~ vol.1 


6月初頭、前日に突如決まった福井行き。しかも滞在時間はさほど長くなく、比較的急ぎ足での行動を迫られる。
かつて約3週間滞在したこの地を懐かしむ間はあまりなさそうだし、下手をすれば昼食だって「安くて早い」もので済ませなければならない恐れもある。

福井城痕4

「滅多に行けない福井に行くのに、上質の蕎麦を食べない手はないだろう」
そうして何とかタイムスケジュールを組み、ターゲットに絞ったのは蕎麦 その字。「かきあげおろし」を主軸に置くこの蕎麦屋は、数多くある福井の蕎麦屋の中でも(おそらく)屈指の人気を誇っている。
なお、私自身これが2度目の訪問である。もっとも、あまり時間がない故に焦る気持ちと単に行きたくて逸る気持ちが合わさり、2度目にしては妙にウキウキしていたのだが。



気もそぞろに店前に到着する。そして思い出す。ここはデザイナーズハウスだとかデザイナーズオフィスを想起させる蕎麦屋であることを。

その字 店前2

外壁はクリーム色のコンクリート。建物正面から見て中央にある入り口と外側の駐車場の間に置かれた壁は、碁盤の目状の線が引かれている。線で区切られてできたマスはいくつもの正方形を成し、各正方形ごとに丸抜き型の穴が空けられている。
その碁盤の目状の壁の上には、壁と建物を繋ぐと同時に屋根の機能を果たしているコンクリートがある。黒く塗られたその部位は、外壁の大半を占めるクリーム色と共にシックなグラデーションを成している。趣味の良いデザイン・カラーリングだ。

でもここは「デザイナーズ」なハウスでもオフィスでもない。それがわかるのは、碁盤の目状の壁左下部分に書かれた「蕎麦 その字」という文字を目にしてからである。

その字 店前3

やれやれ。初訪問時、私はここがその字だとわからず、二度も素通りしてしまった。

入店すると、予想通りだが内側にもやはり「デザイナーズ」な印象を抱かされる。
内壁は外壁と同じくクリーム色。外にあったものと同じデザインの碁盤の目状の壁は間仕切壁として用いられ、その裏側にはライトアップされた赤い壁があるのが穴越しに見える。

その字 店内 その字 店内2

その他諸々、蕎麦屋的というか和風な装いは少ない。そういったものは、大きな木製テーブルとお品書きと調味料のみともいえるかもしれない。

お品書きに「和風モダンの落ち着いた空間で」と記されているように、一応標榜されているものは「和モダン」であるようだ。
でも実際の印象はやや異なる。和にモダンなエッセンスを少し取り入れているのではなく、和と洋の折衷というのでもない。西洋的「古」を「今」仕様に施し、なおかつ「和」のテイストも少し導入されているという印象を抱かされるのである。または、日本は好きだが実際に訪れたり住んだりしたことはないような西洋人の、自前の「和」のイメージが屋内に反映されているようでもある。
「洋ジャパネスク」といったところだ。

その字 店内3

この蕎麦屋が現在の場所に移転したのは平成15年。当時の福井にあって、極めて斬新な意匠であっただろう。そして現在でもなお、都会的な洗練性を感受させる点において異彩を放ち続けている。自分が訪問した蕎麦屋を振り返ってもWEB上で先達の書かれたものを拝見しても、この店と同程度にスタイリッシュな洗練性を有す蕎麦屋は福井に存在しない。

しかしこの「洋ジャパネスク」も普通に和モダンだとして括れば、このスタイルは全国的にはもはや目新しさを感じさせない。ありふれたものともベタなものともいえるだろう(特にBGMにジャズを流すのであれば)。
だから今後新しく蕎麦屋を開店するだとか新調しようとされる意欲的な方々には、そろそろ別の新しい形式を追い求めてほしいものだと、つとに思う。

閑話休題、この日も訪問前から既に注文するものを決めていたが、一応形式的にお品書きに目を通す。

              その字 お品書き2-3 
その字 お品書き3-2 
              その字 お品書き4-1

冷蕎麦は10種類あり、温蕎麦は5種類(未撮影)。さらには「小エビと貝柱のかきあげそば」(未撮影)は3種類、冷たい蕎麦と温かい汁を合わせた「つけ汁そば」は鴨汁を含む2種(未撮影)、清酒は5種類、甘味は2種類(未撮影)、おまけに要予約の蕎麦会席もある。
堂々たる充実振りだ。

私が前回と今回で頂いた蕎麦は3つ。計らずしも、「準主役型」と「W主役型」と「主役型」というそれぞれ異なる蕎麦を食すことになる。

・かきあげおろし

この店で最も人気があるという蕎麦。前回の初訪問時に実食した。

その字 かきあげおろしそば

眼前に供されるなり、事前に見聞きして知っていたはずのかき揚げの大きさに視覚が圧される。某サイトでは「高さ5センチ、直径10センチはある」とされているが、本当にそれぐらいのサイズなのかもしれない。
また、揚げもの特有の香りに嗅覚までもが引き寄せられていく。

蕎麦は黒っぽく、(室内照明が暗いせいもあるかもしれないが)赤い星はあまり伺えない。長さはやや短めで、量も少なめ。

まずはかき揚げを箸で少し崩し、おろしに浸してから口に運ぶ。
海老や貝柱や玉ねぎ等の素材の旨み、噛むとサクサクと音を立てる油のライトなオイリー感、そしてその2つを引き締めつつも引き立てるおろしの辛みと旨み。
口中及び鼻腔内で成されるこれらの離合集散が、ただ単純に美味い。

その字 かきあげおろしそば3-1

かき揚げを蕎麦と共に食すと、口中にそこはかとない旨みが加味される。しかし蕎麦はどうしたって押され気味、というか完全に主役の座をかきあげに譲ってしまい、脇に回っている。
それもまあ仕方が無いような、準主役型の蕎麦なのだ。

・くるみ

胡桃(クルミ)と蕎麦つゆ、蕎麦で頂く冷蕎麦。今回の訪問で頂いたもの。
これまでくるみ蕎麦自体を食したことがなかったため、相応の期待感をもって臨んだ。

その字 くるみ

クルミは、磨り潰された後に湯で練られて団子状に丸められている。甘くて香ばしい風味を放っており、これがこの店特有のサラリとした甘みを持つ蕎麦つゆとの相性が良い。
結果、爽やかにしてコク深い甘みと香りを有すクルミ汁となる。

蕎麦は後に記す「ざる」に比せば、黒殻&甘皮の香りと実の甘みの両方が控え目なタイプ。これは「かきあげおろし」の蕎麦と同じで、おそらく量産型なのだろう。

蕎麦をクルミ汁に半分かそれよりも少ない程度に浸け、食してみる。
まずは、爽やかなのに深みのある香りと甘みを持つクルミ汁の味わいを感受。しかし、噛み進める内にクルミは引いていき、その代わりに蕎麦の存在感が増していく。
ほう。この2段式の味わいが、予想していたよりもずっと旨い。「どうして関西の蕎麦屋ではあまり(ほとんど、かも)見かけないのだろう」と少し考えてしまった。

いやはや。ちょっとした驚きを与えてくれるW主役型の蕎麦である。

・ざる(大盛り)

おそらく福井ではあまり注文されないであろう「ざる」(福井の人々にとって、蕎麦といえばおろし蕎麦なのだ)。細かく挽かれた粉で打たれ、やや乱切り傾向を持つ、甘皮たっぷり黒殻少々といった風体の十割蕎麦である。
なお、前回と今回の2回共これを実食している。

その字 ざる(大盛り)-1

蕎麦の黒っぽい色合いや凛とした角の立ち方は、「かきあげおろし」や「くるみ」の蕎麦と同じ程度。ただしこちらの蕎麦の方が長く、コシの強さもある。そして特有の香りも強い。
少しの黒殻とたくさんの甘皮によるささやかな穀物的香ばしさを携えた蕎麦の実の甘みが、適度なコシと適度な冷たさに乗せられて爽やかに響き渡る。

もちろん携えているものが携えているものだけに、その甘みは控え目ではある。もし丸抜きの蕎麦をミルクと喩えるならば、こちらの蕎麦はフレッシュを入れたコーヒーの風味に似ているといえる。

その字 ざる(大盛り)2

そばつゆは、蕎麦猪口に少なめに注がれて供される。
それ故に「辛い」か「辛め」の味わいを予想させるのだが、これが大外れ。今まで頂いたものの中でも一、二を争う程の甘さであった。
「うわっ!」
前回訪問時に初めてこれをチビリと啜った際、「甘めの」ないし「甘い」そばつゆを苦手とする私の味覚が悲鳴を上げるのがわかった。しかし次の瞬間に、少し思い直す。
「あれ?」
確かに甘いのだが、これまでに未経験の甘みだ。そして、完全に思い直す。
「旨い」。
未だによくわからない。通常の、あの味醂ベースのドロリとしたややくどい甘みではなく、サラリと旨い甘みが利かされているのである。
何をどう用いればこの甘みが出るのかは皆目見当もつかないが、ほんの少しだけ天つゆにも似たニュアンスだ。

蕎麦をそばつゆに浸けて食す。
つゆのサラリとした甘みを触媒として、蕎麦が自らの旨みを増幅させているのがわかる。
しばしば語られる蕎麦とつゆの「一体感」ではない。それ以上の、共振によって生じるシナジーが生じているのである。
初めてこれを食した際には、思わず目を見開いてしまった。私としては蕎麦において未体験の旨みであった。

無論、賛否両論分かれそうな味わいではある。関東風であれ関西風であれ、通常のそばつゆのテイストや「一体感」とは異なるのだから。
しかしそれ故に、蕎麦そのものをメインに味わう傾向があってなおかつ数多くの食経験も有している方々、つまり蕎麦通・蕎麦好きの方々が、この「共振→シナジー」をどうお感じになられるのかを知りたいものである。
と、このように通常のそれとは異なる主役型の蕎麦である。

由利公正像

さしずめデザイナーズ蕎麦屋とでも呼べそうなこの蕎麦 その字
「洋ジャパネスク」な装いと「かきあげおろし」を主軸に据え、県外からもお客さんを呼べる実力店だ。
でも私のお勧めは「ざる」と「くるみ」。とりわけ「ざる」は興味深い。蕎麦を一風変わった蕎麦つゆと共に頂き、それが食べ手個々にどんなケミストリーを生じさせるのか。あるいは吉と出るか凶と出るか。
もちろん個々人によって偏差は生じるだろうが、それでも蕎麦通・蕎麦好きには是非一度試して頂きたい。

(最終訪問、2010年6月初頭)

○ 蕎麦 その字

住所:福井県福井市高木中央2丁目2612(地図
営業時間:11:30~14:30 17:00~20:30
定休日:月曜
電話番号:0776-52-1106
備考:駐車場8台 禁煙

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COMMENT

京瑠璃さん、こんばんは。

またまた、福井に行かれていたんですね♪
5月に福井に行った時に「羽衣餅」やそのお店の看板を見かける度に、京瑠璃さんの事を思い出したりしちゃっていました。 >_<
見るだけで購入はしなかったんですけど・・。

コチラの「胡桃」の使い方って、珍しいですね!
おそばやさんで「胡桃」というと「クルミダレ」しか頭に浮かばなかったので「へぇ~っ!」と感心しちゃいました。
2010/06/14(月) 23:39:29 | URL | こま #JK/.nkhc [Edit]
こまさん おはようございます

>またまた、福井に行かれていたんですね♪

ええ。
しかし今度は自由度が低い条件下でした…。

>5月に福井に行った時に「羽衣餅」やそのお店の看板を見かける度に、京瑠璃さんの事を思い出したりしちゃっていました。 >_<

あはは。
そういえば、羽衣餅に関してもお話しましたよねぇ。

>おそばやさんで「胡桃」というと「クルミダレ」しか頭に浮かばなかったので「へぇ~っ!」と感心しちゃいました。

私もそうです。
こまさんと違って私は「クルミもの」の蕎麦を初めて頂いたのですが、イメージとしては予め出来上がった汁しか持っていなかったですからね。
「蕎麦つゆ中の甘さがクルミの甘さとプラスαを生み、一方で蕎麦つゆ中の塩分で程よく引き締められている」という感じで、実に良いクルミ汁となっていました。
こまさんも何年後かにまた福井に行かれる際は、この蕎麦屋のことも候補に入れてみてください。

2010/06/16(水) 06:46:34 | URL | 京瑠璃 #3KrfhFaQ [Edit]
京瑠璃さん、こんばんは。

>しかし今度は・・・
そぉだったんですか?
前回の時は、結構充実されていたんですよねぇ♪
確か? @_@

>そういえば、羽衣餅・・・
はいっ。 ^^
あの時に、自分で検索してみたりしたので、どんな感じのモノかわかって
いたんですけど、リアルで現物や大きな看板も見たりして「あっ! コレが
あの時の。」と、ついウレシクなった事も思い出しました。 >_<

本当はこの間の旅行の時にも、京瑠璃さんの話しを聞いていたので、福井
でお蕎麦を食べたかったんです。
けど、目的のお店は休業日だったり、時間がなかったりで・・・。 T_T

また、前の記事の時みたいな素敵な写真も楽しみにしています。
お蕎麦とかと関係なくてもっ♪ >_<。。
2010/06/16(水) 21:27:29 | URL | こま #- [Edit]
こまさん おはようございます

>前回の時は、結構充実されていたんですよねぇ♪
確か? @_@

はい。今では第3の故郷と思える程に充実した時間を過ごさせて頂きました。
観光地には一切行かなかったにも関わらず。

>リアルで現物や大きな看板も見たりして「あっ! コレが
あの時の。」と、ついウレシクなった事も思い出しました。 >_<

写真や映像でしか見たことがないものを実際に見ると、そんなテンションになりますよね。有名人を実際に見るときと同じ心理ですが、別に有名な人やモノに限った話ではありません。

>けど、目的のお店は休業日だったり、時間がなかったりで・・・。 T_T

それは残念ですね。どこに行かれるつもりだったのでしょう。

>また、前の記事の時みたいな素敵な写真も楽しみにしています。

了解いたしました。
私のように色香に欠く長文を書くものには、写真は有難い存在です。
2010/06/17(木) 04:51:58 | URL | 京瑠璃 #3KrfhFaQ [Edit]

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蕎麦、中華そば、側(そば。つまり私たちの身近にあるもの)等、ソバ全般に関して。

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