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源流として ~凡愚~ vol.1 


五月半ばの、そろそろ暑さが幅を利かせ始めたある日。大阪市大正区は大正通りを南下している。
乾燥した空気が肌の水分を奪い、その弱みを突くように照りつける日差しが痛い。物理的に、ただただ痛い。だから日陰から日陰へと渡り歩くようにして歩く。信号待ちも、もちろん日陰で行う。
でも日陰が途切れて次の日陰に移動するまでの日差しまでもが痛い。暑い。それは、ただ単に消去法で票を投じられた政治家や政党への淡い期待がまた裏切られ、次なる消去法的な政治家や政党を探す心理を思わせる。

日の昇りがピークに達するような時刻、大正駅から徒歩20分程で目的地に到着。梅雨入り前のそこは、まだ瑞々しい爽やかさを持つ緑で覆われている。

凡愚 店先

大阪の蕎麦屋情報を得ようとすれば必ずといっていい程にその名が挙がる、凡愚(ぼんぐう)である。




まだ若い緑のゲートを抜けるようにして、屋内に足を踏み入れる。営業開始時間から間もない時刻であったせいか、先客はゼロ。というか、誰も私の存在に気が付かない。厨房ではご主人ともう1人奥様とおぼしき女性の声が聞こえるけど、こちらには気が付いていないし、そもそもこの蕎麦屋が私の目に入った直後に花番さんは外に出て行かれたためにいない。出入り口の方を振り返れば、まだ暖簾もかかっていない(上の写真を撮ったのは退店後)。
やや心配になり、外での準備を終えて戻ってきた若い花番さんに「お店、開いて…ますよね?」と尋ねる。彼女は営業しておりますと笑顔で答えてくれる。ここで一安心し、席に着く。しかし、その後10分ほど暖簾はかけられずじまいであった。

凡愚 店内4

このように、ライトグリーンの暖簾は打ち場のガラスの前での「待機」を強いられている。ふむ。どうやらスロースタートの蕎麦屋なようだ。

さて。屋内なのだが、隅々まで「和的アート」な調子で彩られている。というか、屋内全体でその佇まいを醸している。また、アーティスティックな中にも大人の遊び心や力の抜き方の妙も感じられ、わざとらしい「演出」や力みを感じさせない気安さもある。

凡愚 店内8

                凡愚 店内7

凡愚 店内3

「私はこれが好きなんですが、あなたはどうですか?えっ?お気に召さない?まあそれも仕方がないですな、ワッハッハ!」
「お気に召されましたか。ありがとうございます。まだまだ至らんことばかりですけど、そうおっしゃって頂けると有難い限りですわ!」
ご主人のそんな磊落で瀟洒な声が聞こえてくるような装いだ。

出入り口や窓は開け放たれている。初夏の優しい風がさらさらと吹き抜けていく。外の暑さを忘れさせてくれるこの風と開放感は、この店の佇まいと良く似合う。あまりにも心地良く、思わず身体を伸ばしてリラックスしてしまう。

ここの人々の声も良い。いかにも現代社会的なデジタルでヒステリックでパラノイックな硬直性はなく、アナログで力みの無い緩さと柔軟性がある。ご主人、奥様、花番さん。お客さんとのやり取りだけではなく、彼ら同士のやり取りにおいてもそうだ。ベタベタするわけではなく、しかし情感の込もった優しさがある。

蕎麦を食べる前から好きになれる蕎麦屋に来たのは、一体いつ以来だろう。

お品書きは潔いほどにシンプルだ。

凡愚 お品書き1 凡愚 お品書き2

蕎麦が5種類にお酒が清酒と焼酎が1つずつ。もしかすると、本当はもう少しあるのかもしれないけれど、それにしても潔い品数である。
しかし日によっては鯖の押し寿司が頂けるようだし、蕎麦粉を用いたケーキもあることも付記しておかねばならない。
清酒や焼酎にはアテとなるものもついている。

そして私が注文したのは、「細切そば」と「手挽き細切りそば」。送り仮名の有無の違いに何か意味があるのか少し気になるが、おそらく大した意味はないのだろう。
一応この日の主目的であった「太切そば」は後に注文することとする。

注文したものを待つ間、屋内をそよぐ優しい風に身を委ねる。顔を上げて、陶磁器のコレクションを眺めてみる。私より遅れて10分後に来られたお客さんたちとこの蕎麦屋の人たちとの気安くも節度のあるやりとりに耳をすます。

いつもではないだろう。季節や天候、客入りにも左右されるのであろう。でも、今はただただ快適だ。

やがて、はじめの蕎麦が供される。

・ 細切そば

自家製粉で手打ちの、白に近い翡翠色がかった蕎麦。微粉がベースだが、心持ち粗めに挽かれた部位や黒殻も少し混じっている。

凡愚 細切そば1-1

眼前に供された時点で、この蕎麦に釘付けになる。艶やかな潤いと透明感。何とも涼やかな美しさを誇っている。
切り揃えは少しだけ乱れている。でもあまり揃い過ぎていると機械的に思えてしまう私としては、丁度良い程度でもある。

凡愚 細切そば2-1

口に運ぶと、意表を突かれたことに気付かされる。食前の印象よりも甘みが控え目なのだ。
ただし穀物感がフワリと微かに漂う程度なのは印象通り。味・香りというよりも、それらを弱めて曖昧にした「風味」といったところだ。
しかし食感はいかにも私好み。しっとりと憂いのある柔らかな弾力、そして口中が転がして心地良い舌触りがある。

この蕎麦。アーティスティクな空間で初夏のそよ風の通過点となりつつ頂く蕎麦とすれば、クールで悪くない。
「納涼」には濃い味や強い香りよりも、美しい佇まいと爽やかな風味の方がよく似合う。

・ 手挽き細切り蕎麦

弟子である蔦屋(谷町5丁目)と孫弟子である山親爺(神戸)にも踏襲されている蕎麦。

凡愚 手挽き細切りそば

細切そばよりも小豆色がやや濃く、粗く挽かれたことを示す欠片も多い。しかし単なる田舎蕎麦とは異なり、さほど多くの黒殻は混入されていない。
「甘みがあってさらに穀物的風味も漂うという、私好みの味わいなのではないか」という期待が高まる。

凡愚 手挽き細切りそば2

しかしどうしてだろう。結論からいえば、この日の手挽きは食感、味、穀物的な香りの全てが淡い。どれか一つないし二つのファクターが他のファクターを牽引するわけでも高次でバランスが取れているわけでもない。
とにかく淡く、大人しいのである。

この蕎麦を二口程頂いた後、少しだけ頑張ればもう一品程食せそうだと判断する。そこで「太切そば」を追加注文することに決める。

なお、この注文をした時点で、既に屋内は常連と思しき方々で賑わっていた。
もちろん私のように新奇の客もいる。でも誰一人として強張った顔をしていない。気難しそうな顔もしていないし、不機嫌そうな顔もしていない。朗らかな笑顔で寛いでいるか、少なくともリラックスしているかのどちらかだ。
奥の厨房にいるご主人のことはわからないが、女将さんや花番さんもお客さんと共に微笑んでいる。というか、彼女たちがリラックスし、微笑まねば、この雰囲気は醸せない。
料理の美味しさとは、料理の内だけにあるものではないことを再認識させられる(もっとも、そう勘違いしている作り手は多いけど)。

・ 太切そば

同業者と未来の同業者、そして客にもっとも衝撃を与えたであろう太切り蕎麦。山形県の有名店あらきそばのインスパイアだそうだ。
私はこれを「かも汁そば」で注文した。

凡愚 かも汁(太切そば)

これまで写真で何度か写真で見たことがあり、しかも太切り蕎麦自体が初めてではないため、眼前に供されても私としてはその相貌に驚きはしない。「微粉ベースで、黒殻が少ない」と判断した程度である。
でも口にして驚かされたのは、それが「あつもり」であることだ。水か氷水で締められていない。

凡愚 太切そば

そうか。そうであった。この太切はあつもりとひやもりで供されるのだ。事前にそれを知っていたはずなのに、私はそれをすっかり忘れてしまっていたわけだ。
なおかつ花番さんも、私の後に「太切そば」を注文したお客さんにはあつもりかひやもりかを尋ねられていたが、私にはそれは無かった。なまじ蕎麦屋慣れしているせいなのか、私はこの蕎麦屋に初訪問だとは思われなかったのだろう。

かくして、このあつもり太切り蕎麦。一度噛めば、その相貌が与える印象ほどには硬質でないことがわかる。歯の通りが良いし、粘ることもない。サクサクというわけではないが、「サックリ、サックリ」という具合に噛み進められる。
味わいは、微粉系の蕎麦掻によく似ている。湯気が立ち上るように、蕎麦の甘みや香りが口中に立ち込め、後に鼻腔を通過する。
そう。食感といい味わいといい、まるで微粉系蕎麦掻を太切り蕎麦状に切られたものであるかのよう

でもやはり、私としては冷たく締められたひやもりじゃないと食べた気がしないのは否めない。失敗してしまった。

・蕎麦つゆ、塩、鴨汁等

蕎麦つゆははっきりと「辛い」といえる味わい。味醂は煮切られて風味をとばされているか全く使われていないかのいずれかであり、とにかく醤油とそれに付随する魚介類の辛みと旨味が前面に出ている。
関西の蕎麦つゆを「甘い」「甘め」と知覚し、はっきりと苦手だったり苦手気味だったりする私でさえも、これは辛いと感じる。
鴨汁もしかり。鴨脂や鴨肉の甘みや旨味で多少は緩和されているものの、やはり辛い。
無類の醤油好きの方々以外なら、4分の1程度のつけ具合で良いかもしれない。

塩はなんと4~5種類も取り揃えられている。

凡愚 店内5

凡愚 店内6

蕎麦は大粒、塩は小粒を好む私はこの中でもっとも小粒なものを選択する(どれであったかは失念)。そしていつもそうするように、蕎麦一口辺りにつき6~8粒ほどかける。蕎麦に塩味を付けるのではなくあくまで甘みを引き立てる程度に留めるためだ。

tour.jpg

注文した全てを平らげて、退店する。「この蕎麦屋に来て良かった」という満足感と「まだもう少しここにいたい」という名残惜しさを抱いている。

凡愚よりも美味しい蕎麦を供す蕎麦屋ならいくつも知っている。でもここよりも快適で伸びやかな時・空間を供す蕎麦屋となると、そう幾つもあるわけではない。
特に都会の蕎麦屋であればなおさらだ。

凡愚が源流として伝えたのは手挽きや太切りの蕎麦だけではなく、その源泉で沸く時・空間的美味しさという名の水なのだろう。

(2010年5月初訪問)

○ 凡愚

住所:大阪府大阪市大正区泉尾4-4-7(地図
営業時間:11:00~15:00(売切れ次第終了)
定休日:(大晦日以外の)月曜日~水曜日
電話番号:06-6553-7272
備考:駐車場無し

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COMMENT

わざわざの手挽きが淡い味なのは問題です(笑)
蕎麦が標準以上なら 空間 居心地の妙で
十二分に楽しめるというお店だったのですね。

太を水で〆ると クチャットして歯が抜けそうなので
熱で良かったのかも・・・(汗)


2010/06/28(月) 21:39:36 | URL | 美味蕎麦食べ人karajiru #phHF4o9M [Edit]
美味蕎麦食べ人karajiruさん、こんばんは
本当に名前の表記を変えられましたね

>わざわざの手挽きが淡い味なのは問題です(笑)
 蕎麦が標準以上なら 空間 居心地の妙で
 十二分に楽しめるというお店だったのですね。

ネガティブに元も子もない言い方をすれば、そういうことになります。
おおよその事前情報により蕎麦にさほど期待が持てないことはわかっていたのですが、手挽きの薄さは予想外でした。

まあでも、何でしょう。大阪にはまだまだ訪れたことのない蕎麦屋が多いですが、今のところ時・空間的には一番気に入りましたよ。

>太を水で〆ると クチャットして歯が抜けそうなので
熱で良かったのかも・・・(汗)

「和」の太い方でも大丈夫なので、大丈夫…なはず。
2010/06/29(火) 22:04:06 | URL | 京瑠璃 #3KrfhFaQ [Edit]
京瑠璃さん、こんにちは。

冒頭の部分を読んでいると、こちらまで「ジリジリ」と暑い気分になっちゃいました。 ^^:
首の後ろのトコが、「暑痛い~~っ!」な感じで・・。
お店の中は一変した雰囲気で、気持ちの良い風が吹き抜けていくようで素敵ですね。 ^^
>次なる消去法的な政治家や政党を・・・
ワールドカップも気になるけど、今度の選挙はどうしましょうかねぇ。 -_-:
「どの政党に・・・」と、ずっと迷っています。 

で・ですねっ!
「細切そば、キレイ~っ。 手挽き細切り蕎麦もゼッタイに好みな・・・・」と思っていたら、驚きました!?
太切そばのインパクトは、凄すぎです。 @_@:
1本うどんって聞いた事があるけど、蕎麦でもこのような感じのモノがあるんですね。
「細切そば」・「手挽き細切り蕎麦」のビジュアルできたので、なおさらビックリしました。 ^^:
でも、この「太切そば」の食感も興味あります♪

卓上の唐辛子の横にいるって、犬ですか?
それと、最後の写真の季節っていつだろ?
暑い季節では、ナイような・・・
2010/07/01(木) 15:10:30 | URL | こま #JK/.nkhc [Edit]
こまさん こんばんは

>冒頭の部分を読んでいると、こちらまで「ジリジリ」と暑い気分になっちゃいました。 ^^:
首の後ろのトコが、「暑痛い~~っ!」な感じで・・。

ふふふ。自分だけが暑いのはシャクですから、読む人にも苦しんでもらおうという所存でした。って、嘘なんですけどね。

>「どの政党に・・・」と、ずっと迷っています。

誰かに怒られることを覚悟で申しますと、選挙における選択肢は「どの政党・候補者に票を投じるか」の内にのみあるわけではありません。なんてね。

>太切そばのインパクトは、凄すぎです。 @_@:

あっ、やはりそうでしたか。私も蕎麦の食べ歩きを始める前から、この蕎麦だけは雑誌で見て知っていました。
「へっ?!」
と驚かされたものです。

>卓上の唐辛子の横にいるって、犬ですか?

はい、ワンワンだと思われます。
実は狼だとかハイエナだということがない限りは…。

>それと、最後の写真の季節っていつだろ?
暑い季節では、ナイような・・・

秋です。
しかし凄いですね!
よく夏じゃないと推察されましたね。


ところで私事ですが、今日は久々に激昂したというか頭に血が上るようなことがありました。
アドレナリンが出た後というのはいつもそうですが、何だか空虚な疲れが心身が重くするものです。
帰宅してからも、しばらくはそうでした。
でもそんな中、こうしてこまさんにコメントを頂けました。
内容的に、おかげさまでホッとすることができて、今に至っています。
ありがとうございます。

有難み、感じています。




2010/07/01(木) 23:08:18 | URL | 京瑠璃 #3KrfhFaQ [Edit]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2010/07/02(金) 20:58:06 | | # [Edit]
ご無沙汰しております。少しばかりパソコンから遠ざかっていました。

私はまだ行ったことがないのですが、やはりこの太さはインパクトがあります。
盛られると言うより横たわる。
たぐると言うより掴む。
すすると言うよりかじる。
そんな表現が合いそうな気がして・・・

まさに蕎麦掻きをそば切りにしたような (^_^)
2010/07/08(木) 18:55:21 | URL | エノさん #- [Edit]
エノさん こんばんは

>ご無沙汰しております。少しばかりパソコンから遠ざかっていました。

こちらこそご無沙汰しております。
私は暑さが人一倍苦手なのでPCの前のいるのが辛く、
私も遠ざかり気味です。

>盛られると言うより横たわる。
 たぐると言うより掴む。
 すすると言うよりかじる。
 そんな表現が合いそうな気がして・・・

ん~、素晴らしい!
おかげで、あの太切りの感触やを思い出しましたよ。

>まさに蕎麦掻きをそば切りにしたような (^_^)

私が食べたあつもりは「蕎麦掻やん!」な味わいでしたが、
ひやもりですと上で辛汁さんがおっしゃっているように
歯が抜けるようなものなのでしょうかね。あはは。

あと、この蕎麦屋を出てから、「エノさんはもっと快適に過ごされ、もっと美味しく味わっただろうな」とも思いました。
でも、そうでしたか。まだ行っておられていなかったのですね。
では、お勧めいたしますよ~。
2010/07/11(日) 23:14:40 | URL | 京瑠璃 #3KrfhFaQ [Edit]

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