スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

最高の昼餐 ~玄~ vol.1 後編 

・ せいろそば

玄 せいろそば

この蕎麦の初めの一口を口にした刹那のこと。
「!」。
目を見開くほどに驚かされる。
続いて、目尻が下がる一方の悦びに酔いしれる。
そう。
まだ嗅いだり噛んだりして味わっていないにも関わらず、この蕎麦が相当に旨いことを一瞬で「確信」したのである。
味覚と嗅覚ではない。
それ以前に、触覚が確信するのである。
これは予想だにしなかったことであり、初めての、それも衝撃的な経験だ。

黒い殻が挽き込まれていない丸抜きで、極細に切られたこの粗挽き蕎麦。
その口当たりは、儚いまでの軽やかさ、ひんやりとした冷たさ、そして優しく舌を刺激する官能的なざらつきがある。
口にしたものは、この全てを感受することとなる。
そうして、ただこの至極の優美さと甘美さに身を委ねるほかなくなるのである。

では、味わいはどうか。
それはもう、とてつもない程に甘く甘く、そして香ばしく香ばしく…。
さらには、噛んでも噛んでも、強い甘みと香りが絶えず放たれ続けるのだからたまらない。

こうして、先程の確信が確証へと昇華されていく。
「今こうして口にしているものは、蕎麦切りの究極の理想形に限りなく近い」。

玄 せいろそば2

このせいろそばを食べ終えた時点で、もう店を出たくなる程の満足度を得る。
蕎麦を啜っている途中で、私以外の初めてのお客さん(観光客ではなく、地元の常連さんらしき方々)が一組いらっしゃったが、それも気にならない。
「いくら何でも、これ以上はないだろう」。
しかし、蕎麦はまだ来る。
「いなかそば」が来る。
せいろそばと対等に渡り合えるのだろうか。
いなかそばを手に、花番さんがこちらへやってくる。

・ いなかそば

せいろに比すと太めだが、一般的には極細ともいえそうな田舎蕎麦。

玄 いなかそば

均質的な切り揃え、水切りの良さ、そして色艶とハリが美しいビジュアルを誇っている。
また、通常ならば切り揃えの乱れというものは、より太い蕎麦が混じっているというカタチで生じやすいが、ここの蕎麦の場合だと、より細い蕎麦が混じるというカタチで表れるのが興味深い。

このまま眺めていたくなるような美しい蕎麦であるが、そうもいかない。
とりあえず、口に運ぶ。
思いのほか、繋がりの良い(=粗挽き度が必ずしも高いとはいえない)蕎麦であることがわかる。
「ん?」
少し心配になる。
この程度の粗さだと、並程度の蕎麦屋ならば、外殻&甘皮由来の穀物的香りと内実由来の甘み・香りの双方が相殺され、中途半端になってしまう場合があるから。
実際にそういう蕎麦ならば、幾度も食してきた。

しかし少し噛み進めると、心配は杞憂でしかなかったことを知る。
この蕎麦は、繋がりの良さを有しながらも、穀物的の香りをキレのある香ばしさとして発している。
噛むごとに、キレが増していく。
飲み込む瞬間には、さらにそれが一段と増す。
凄い。

穀物的香ばしさを支える、内実の甘みや香りもまた素晴らしい。
通常ならば外殻の香りにマスキングされがちな甘みや香りが、しっかりと利いてくる。
というか、そうでなければキレのある香ばしさをさほど美味しいとは思えないだろう。

一本一本の長さを保つ程度の強度のまま、つまりさほど粗くもないのに、あたかもしっかりと粗く挽かれたような味わいと香りを誇るこのいなかそば。
これもまたせいろそばと同様、蕎麦切りの究極の理想形に限りなく近い位置に布置しているのか。

玄 いなかそば2

さて。
蕎麦は、予め高めに設定しておいたハードル(期待値)をやすやすと跳び越えてしまった。
それも、両方共が。

というわけで、あとはもう激しい運動の後のクールダウンだとかエピローグのようなものになってしまうが(ごめんなさい)、蕎麦つゆや薬味にも一応触れておこう。

・蕎麦つゆ、薬味等

蕎麦つゆ。
醤油の旨味と和出汁の旨味が良く利いていて、なおかつ味醂か糖類による甘みも軽く利かせてあるもの。
蕎麦つゆに味醂ないし糖類による甘みを感じることを好まない私のような方々には、蕎麦をこのつゆにつけることをお勧めできない。
しかし単独で飲むにあたっては秀逸で、それは後に供される白濁とした蕎麦湯で割る必要がないのではないかと思わされる程であった。

薬味。
せいろそばは山葵と共に、そしていなかそばは大根ないし卓上の岩塩と共に食すのが至って旨い。
山葵は、せいろそばと共に清涼感漂う花の香りのシンクロナイズを繰り広げる。
岩塩は、いなかそばの殻の穀物感も実の甘みも引き立てる。
大根は、その鮮度の良さを感じさせる瑞々しさと素材の旨味が素晴らしい。
ただしどの薬味も、蕎麦に微量を付すところから始め、個々人の味覚ないし好みに応じて増減を試みるのが望ましいだろう。

また、素晴らしい蕎麦屋というものはやはりつゆや薬味までもが良質なもの。
しかし同時に、何もつけずに食べ終えたくなるような上質な蕎麦を供しもする。
この蕎麦屋においてもまた、基本的には蕎麦をそのまま頂き、アクセントとしてつゆや薬味を用いる程度で良いのかもしれない。




退店後、再び奈良町を歩く。
しかし、参ったものだ。
今度は、町並みが全然目に入らない。
こころも頭も、一色に染まり切っている。

お店の「ものの哀れ」の佇まい、蕎麦のあの食感、あの甘み、あの香り…。

「高い」「量が少ない」。
そんな野暮な台詞は言いっこなしだ。


(訪問時、2010年2月)

奈良公園  鹿

・玄

住所:奈良県奈良市福智院町23-2(地図
営業時間:11:30~13:00※ 18:00~19:00(要予約。2組のみ。蕎麦懐石コースのみ)
定休日:日曜日と月曜日
電話番号:0742-27-6868

※昼は予約無しでも入店可能。
 ただし蕎麦が売り切れていることがよくあるそうで、やはり事前に予約しておくことが無難か。
 また予約で確保できるのは座席ではなく、希望の蕎麦やその他の料理を人数分。
スポンサーサイト
「遊び」の中の真直 ~そば切り からに~ vol.1 | HOME | 最高の昼餐 ~玄~ vol.1 前編

COMMENT

今晩は、お邪魔いたします。

私はこのお店だけは,,もう少しだけ後に訪れようと思っています。色んなお店を訪れた末に行ってみたいと・・・
以前食感食後・・の辛汁さんから頂いたコメントに「蕎麦の概念が変わる」と有りました。それと味わえる時に食べないと次がないかも知れないと言われてます。
最近かたくなに固辞する気持ちが変化し、一度訪れようと思い始めているのですが。
2010/03/18(木) 23:15:33 | URL | エノさん #N1aTFCKA [Edit]
エノさん こんばんは

>以前食感食後・・の辛汁さんから頂いたコメントに「蕎麦の概念が変わる」と有りました。

辛汁さん程の人の概念を変える蕎麦というのも、凄いですよねぇ。
そうはないでしょう。

私の場合はちょっと違って(だって概念自体を持っているのかどうかも怪しいですし…)、「蕎麦に求める水準が上がる」といったところでしょうか。
もちろん似たベクトルの蕎麦を食した際の全てで、玄の蕎麦と比較して「ダメ出し」をするということではありません。
何といいますか、これまでの「美味しい!」が「そりゃあ玄ほどではないけど、でも美味しい!」になってしまうといった感ですかね。

>色んなお店を訪れた末に行ってみたいと・・・
>最近かたくなに固辞する気持ちが変化し、一度訪れようと思い始めているのですが。

玄の蕎麦が、蕎麦食経験の豊富なエノさんにどのような作用を及ぼすのか。
あるいは特別な作用を受けられないにしても、どう評されるのか。
う~ん…、興味深いですねぇ。
2010/03/19(金) 00:37:30 | URL | 京瑠璃 #3KrfhFaQ [Edit]
横から 失礼いたします。概念について報告です。

蕎麦掻と蕎麦だけ食べて お!あ!美味しいと
久しぶりに 単純に思える蕎麦でした
食べる前から 評価しない微粉系のせいろまで美味しい

①せいろ<田舎
②細い=食べやすいが 味が薄く感じる

私の勝手な概念でした。

その昔 玄さんが 出張蕎麦打ちを食べた方の
お話では 田舎蕎麦も 更科のように
お湯練で 繋がったら 氷水で 加水していく打ち方とのお話でした。

昔のビデオを見たことあるんですが 記憶にありませんので 未確認情報です。
内緒ですよと広がる話なのかも(笑)

③お湯練=美味しい蕎麦が出来ない 蕎麦打ち技術が未熟と 変な事に拘っている 蕎麦好きには
食べる前から 美味しくないはず

・・・なのに 何処の蕎麦屋にも負けていない

どうせ 100℃でゆでるんだけれど 茹でるまでの過程の 蕎麦に対する温度管理は とても神経質なのです。(汗)

・・・食べないと、分からないですよ
2010/03/19(金) 05:57:20 | URL | 辛汁 #phHF4o9M [Edit]
無根拠・無責任な想像
辛汁さん おはようございます

>①せいろ<田舎
 ②細い=食べやすいが 味が薄く感じる

へ~。辛汁さんにもそんな時期があったのですね。
意外でした。
蕎麦好き・蕎麦通は皆、それぞれのターニングポイントとなる蕎麦ないし蕎麦屋をいくつか持っているはずですが、辛汁さんにとって玄はその一つなのでしょうか。

>③お湯練=美味しい蕎麦が出来ない 蕎麦打ち技術が未熟と 変な事に拘っている 蕎麦好きには
食べる前から 美味しくないはず
・・・なのに 何処の蕎麦屋にも負けていない

最近流行っている蒸し料理だと、旨味が最大限に引き出される温度帯があるそうですね。

もちろん蕎麦は蒸し料理ではないですが、もしかすると湯練りにもそのような温度帯があるのでしょうか。
いや温度帯だけではないかも。
玄さんは「○○産の蕎麦は、○○の水をおよそ○℃~○℃の温度帯までまで高めたお湯にして、水回し(湯回し)すれば、繋がりも味わいも優れた蕎麦切りになる」といったことを知っているとか。

と、ド素人の想像は際限なく膨らむものです。

2010/03/20(土) 10:20:35 | URL | 京瑠璃 #3KrfhFaQ [Edit]
食べてみないと解らない・・・
私はいつもそう思ってあちこちのお店に行っているのですが・・・
このお店も例外ではないですよね。
ちょっと妙に思い入れがあったのかも知れません。
(;^^)ヘ..
2010/03/22(月) 23:04:59 | URL | エノさん #N1aTFCKA [Edit]

COMMENT FORM


TO SECRET
 

TRACKBACK URL to this Entry

TRACKBACK to this Entry

| HOME |

calendar

S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
09« 2017/10 »11

プロフィール

京瑠璃

Author:京瑠璃
蕎麦、中華そば、側(そば。つまり私たちの身近にあるもの)等、ソバ全般に関して。

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

最新トラックバック

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR
PageTop▲
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。