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「お母さん」のいる蕎麦屋 ~文久蔵~ vol.1 

「おっと」。
通り過ぎそうになり、少し慌てて引き返す。
「ここか」。
滋賀県は彦根市にある、本格手打ち蕎麦 文久蔵である。

文久蔵 店先

左手側に折れると、9台分の駐車場。
個人経営店としては、随分と大きい。

駐車場内を進み、案内標識に従って右を見る。

文久蔵 敷地内-1

そこから少し進むと…


文久蔵 前庭

こんな庭に突き当たる。
人の手で神経質なまでに整備・剪定されたような庭ではなく、自然が自然であることを忘れさせない庭。
管理者の「俺(私)って、素敵でしょ?」との声が聞こえず、季節感や生命の営みがある庭。
いいねぇ。

写真で見る限りでは、眼前の飛び石の先にお店があるように思える。
しかしそうではなく、ここから先には進めない。
玄関は、左手方向にある。

文久蔵 玄関

靴を脱ぎ、入店する。
江戸時代の蔵が改装されたのがこの蕎麦屋だそうだが、まだ新しいことや日々のケアを怠らないこともあるのか、店内は清潔感に溢れている。
和をベースに、大正ロマンのテイストを加味したかのような素敵な空間。
BGMで流されている久石穣のピアノの調べが、妙な程に優しく美しく響き渡っている。

文久蔵 店内4 文久蔵 店内1 文久蔵 店内2

またお品書きや卓上の小物などには、「和」的な美意識が表れている。

文久蔵 お品書き1a 文久蔵 店内5-1

様々なものを見たり聞いたりしている内に、女将さんが私のテーブルにやってくる。
接客は主にこの人が担当し、彼女の手が空いていない場合は、ご主人が厨房から直接蕎麦を配膳されるようだ。

・女将さん

さて。
この女将さんなのだが、お客さんへの接し方が実に素晴らしい。

ことばの使い方や内容、何度も深々とお辞儀をされる様などで、その礼節の徹底振りが伺える。
しかしたとえば高級料亭や旅館の女将・仲居さんのそれのような、形式張ったものはない。
格式や女将・仲居としての自らの誇りに「飲まれている」ようでもない。
そう。
「プライド高そ~…」と鼻白むものがないのである。
料理を供する際や厨房に戻る際には軽く早足で動かれたり、どこかおっちょこちょいなところもありそうだったり。
そして忙しい中でも、お客さんへのお声掛けやお見送りを忘れない。
その柔和な笑顔と物腰を持ってして、こちらを緊張させない。
むしろとても清々しく、穏やかな気持ちになるのである。

どれだけ優れた接客・サービスのマニュアルを作ろうとも、あるいはそれを超えた人間味のある接客を目指しても、大抵の人はこの人のようになれないだろう。
田舎の「お母さん」の理想像、つまり、(田舎出身であろうとなかろうと)大なり小なり我々が抱く「郷愁」とリンクする「お母さん」像に寸分の狂いなく当てはまる。
この人には、「接客」というドライで無機質に響くこともあることばが似合わない。

おもてなしの理想がここにある

もう一つだけ加えておこう。
実は上に述べた店内やBGMは、もちろんそれ自体も良いのだが、女将さん=「お母さん」効果が波及した結果としてより良く感じられることは否めない。
「しばらくここにいたいな」。
蕎麦を食べる前から、これだけ良い気分にさせられるのだから。


お通しの揚げ蕎麦を本当に少しずつ、ゆっくりと頂きつつ蕎麦を待つ。

文久蔵 蕎麦のあげたん

「(ポリッ……、ポリッ……、ポ……リッ………)」。
我ながら遅いな。
そうこうしている内に、女将さんが蕎麦を手にこちらにやってきた。
「(パタパタパタパタ)」
やはり静かな小走りだ。

・鴨せいろ

北海道で江戸流蕎麦を学んだという、関西の蕎麦屋にしては異色の経歴を持つご主人が打つのは、翡翠がかった丸抜きの十一(外一)蕎麦。

文久蔵 鴨せいろそば-1

切り揃えと水切りも良い。

文久蔵 鴨せいろそば2

啜り上げて口の中で転がせば、その啜り心地や舌触りのスムースさを感じさせる。
ピンと立った角は、凛とした気持ちにさせる。
噛めば、相応の弾力を誇る密度であることもわかる。
そして、まあ今が冬であることもも関係するかもしれないが、下手な十割蕎麦よりもよほど蕎麦の風味が立っているのが良い。
「甘み」と「香り」の二つを容易に分断させない、オーソドックスな風味を口中に漂わせる。

この蕎麦を醤油が濃い目で鴨脂等の甘みも強い鴨汁に少しだけつけ、蕎麦中心に味わうも良し。
たっぷりつけて鴨汁中心に味わうのも良し。
ちなみに鴨肉は硬め。

「全てのお客さんのニーズに応えられる蕎麦は、誰にも作り得ないだろう。
 しかしどのニーズも捨てたくはない。
 自分の、そしてあらゆるお客さんのニーズを少しずつでも汲んだ蕎麦を打ちたい」

そんな意志に基づいて試行錯誤が重ねられ、できあがったのがこの蕎麦なのだろうか。
この上なく模範的な蕎麦である。
模範中の模範ともいえるかもしれない。
「蕎麦が好き」「蕎麦も好き」という方々なら誰でも、この蕎麦を「美味しい」未満の評価はしないだろう(無論「絶品!」と誰かから聞いていて期待値を上げていると、話は別なのだが)。
広く開かれた、とても優しい蕎麦なのである。


「お母さん」効果もあり、蕎麦を美味しく幸せな気分で頂けた。
〆に鴨汁の蕎麦湯割りを飲みつつ、安らぐ。

文久蔵 蕎麦湯

気分が良いため、普段は蕎麦屋で供されてもほとんど頂くことのない付け合わせの漬け物にも手を付ける。
山葵菜漬けだ。
(…)
むむ。意外にも美味い。
身がプリプリとした茎は、噛めばシャキシャキと音を鳴らす瑞々しさを有している。
山葵菜がこんなに美味しいものだったとは…。




帰り際、女将さんと少し世間話をする。
至極腰が低くて礼儀正しく、なおかつ柔和なこの人と。
この店の周辺には別に長閑な田園風景が広がっているわけではないが、そこで安らぐ際と同じ清々しい気持ちになる。

何だろう。
この蕎麦屋には、「行く」という表現だけでは物足りない。
文久蔵に会いに行く」。
このくらいで丁度良い。

(訪問時、2010年2月末頃)

文久蔵 お品書き2 文久蔵 お品書き3
文久蔵 お品書き4 文久蔵 お品書き5


○ 本格手打ち蕎麦 文久蔵(公式HP

住所:滋賀県彦根市沼波町38(地図
営業時間:11:00~15:00(14:30ラストオーダー)
定休日:毎週火曜日と第3水曜日・木曜日
電話番号:0749-22-7077
駐車場:あり(9台)
備考:禁煙
  


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2010/03/22(月) 10:02:01 | | # [Edit]
ここは一度訪れてみたい。そんなお店です。
いつも彦根は通過点なので。
以前彦根市役所の方とお話をする機会があって、やっぱり通過点らしいです (^_^)

でも頑張っておられるようです。
2010/03/22(月) 23:09:28 | URL | エノさん #N1aTFCKA [Edit]
エノさん こんばんは

なるほど。通過点ですか。

私としては、この蕎麦屋は「彦根に行くことがあれば」という条件付きでお勧めしたいです。
わざわざこの蕎麦屋を目当て行かれること、あるいは通過点で止まってまで行かれることをお勧めするには、やや蕎麦が弱いかも。

でもここがいたく気に入ってしまったのも事実。
また彦根に行くことがあれば、再訪問するつもりです。

2010/03/24(水) 18:50:46 | URL | 京瑠璃 #3KrfhFaQ [Edit]
今回の連休で「滋賀に行ってみる?」という話しも出たのですが、結局は京都・兵庫・大阪をウロチョロとしていました。 >_<:

京瑠璃さんがコチラに行かれた時のお天気はどうだったのでしょう?
少しだけ肌寒かったりしたのかな?
でもお庭の写真は、心が温かくなるようで優しい気持ちにさせてくれます♪

女将さんの様子を読んでいると、なんだか『はなふく』を思い出しちゃいました。 
2010/03/25(木) 00:04:33 | URL | こま #- [Edit]
こまさん こんばんは

>京瑠璃さんがコチラに行かれた時のお天気はどうだったのでしょう?
 少しだけ肌寒かったりしたのかな?

先月末頃だったので、そこそこ寒かったです。
私は暑がりですから、他の人にとってはもっと普通に寒かったのかな。

>女将さんの様子を読んでいると、なんだか『はなふく』を思い出しちゃいました。

「さて、はなふくのハナさん。あなたは20年後、文久蔵のお母さんのようになれるかな?」って感じです。

何でしょう。
あの方、礼節は本当にしっかりとしていてしかも懸命に働かれます。
しかし一方で、どこかこう、「底抜けの呑気さ」がベースにある感じなんですよね。
その塩梅が抜群でした。

2010/03/26(金) 00:15:38 | URL | 京瑠璃 #3KrfhFaQ [Edit]

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蕎麦、中華そば、側(そば。つまり私たちの身近にあるもの)等、ソバ全般に関して。

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