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「遊び」の中の真直 ~そば切り からに~ vol.1 

冬にしては暖かい陽気の下、梅田から福島区へ歩く。
ビジネス街であることもあってか、日曜日の福島は道行く人がそう多くない。
急ぎ足の人も少ない。
ポカポカ陽気と相まって、思いのほか長閑な気分で歩くことができる。
暖かい気分だ。

やがて、福島聖天通商店街へと入る。
初めて来たのだが、どうやらここは普通の商店街とは違うようだ。
ただ商店が軒を連ねているだけではない。
どうも占いが盛んなようで、通りのそこら中にこの商店街のキャッチコピーの書かれた幟がはためいている。
「売れても占い商店街!!」。
ああ、そうかい…。

でも、まあ良い。
本日の目的は、そば切り からにへの初訪問だから。


そば切り からに 店先

そうして商店街の途中、この蕎麦屋が眼前に現れる。


外装は、ベージュの外壁にコバルトブルーの引き戸、そしてプルシアンブルーの暖簾が中心のカラーコーディネイト。
シックで落ち着いていて、しかしそれでいて色彩感もある。
そしてそう感じられるのも、引き戸にもたれるカタチで置かれたレッドカラーのマウンテンバイクがアクセントとして「効いている」からだろう。
サーフィン好きだというご主人。
彼の好きな海の心象風景が、自ずから形象化されているように映る。
気のせいだろうか。
やや煤けた外壁と引き戸もまた、良い味出している。

入店する。
まるで芸術家のタマゴが集うような、ギャラリーや工房を思わせる店内だ。
お金はないけど、創造性と熱意はある。
そんな人たちが集うような、あるいは、かつて集っていたといわんばかりの。
たとえば、「妖怪涅槃図」とでも呼びたくなるような、天井に吊るされた絵画。

そば切り からに 店内1

障子のようなデザインの間仕切り壁の内側木材部分に描かれた花々に、創意工夫によって椅子に見立てられたバケツ。

そば切り からに 店内2

もしスポットライトでライトアップされていたり色調が明るかったりすれば、「大仰な」だとか「度が過ぎる」遊びになりかねない。
でも昼間の店内は自然光が頼りで、間仕切り壁の絵の色調も落とされ気味。
だから「遊び心」の範囲内での奇抜さとして、見るものを愉しませる。


さて。
若い女将さんがまず持ってこられたのは、湯気をモワモワと立てている「鴨椀」である。

・鴨椀

鴨のロースが3、4枚に九条ネギと千住ネギで構成される鴨汁(の蕎麦がついていないもの)。
鴨肉も鴨脂も旨味や甘みが控え目だが、単独で飲むには良い。

そば切り からに 鴨椀

しかしお酒のアテとしては、どうなのだろう。
蕎麦屋でお酒を飲まない(我慢、がまん、ガマン…)私には、その辺りはわからない。

鴨椀を少しだけ頂き、後でやってくる蕎麦につけるために残しておく。
さほど間を空けることなく、蕎麦がやってきた。

・細切り

翡翠色がかっていて、一本一本が細く長い九一蕎麦。
少しだけ粗めに挽かれている。
黒い殻は取り除かれているものの、蕎麦の実のへそ(ほぞ、へた)部分である栗色の「星」がちりばめられている。
艶やかでいて、凛々しい印象だ。
そば切り からに 細切り1-1

一口手繰ってみて、「うんっ!」とこころの中で力強く頷かされる。
甘みや香りが別段強いというわけではない。
しかし水切りの良いこの蕎麦は、凛とした風味が口中や鼻腔に響き渡るのである。
この「凛とした風味」があるが故、私の蕎麦の評価における優先度がかなり低いはずの「コシ・喉越し」も良さも美味いと感じられる。

そば切り からに 細切り2

面白かったのは、この蕎麦が木の香りを漂わせていたこと。
何も味覚・嗅覚が常人の何倍も優れていて、なおかつ数え切れない程の蕎麦食経験を有す人だけがわかるような「微香」ではない(だって、私でもわかるのだから)。
嗅覚が正常に機能するのであれば誰でもわかるような、はっきりとした「木の香り」。
おそらくこの香りは外因的で、しかも偶発的なものだと思われる。
新しい木箱か何かの香りが移ったのだろう。
これが、もちろん蕎麦を味わう・評価する上では「邪道」なのだろうが、しかし普通の蕎麦にはない清涼感を感じられて良かった。

蕎麦の味わい・香り+木の清涼感
もっとも次回訪問時に、この木の香りが漂っているかどうかはわからないけど。


続いて、細切りを食べ終えた頃にやってきたのは「粗挽き」である。

・粗挽き

グレーがかった、粗挽き蕎麦。
黒い殻や実のへそも混入されている。

そば切り からに 粗挽き1

二、三口手繰ってみる。
少しザラつく舌触り、柔らか目の食感、穀物の香り・甘み。
見た目から受ける印象通りの味わいで、旨い。

また、ご主人の修行先であるそば切り 天笑の「粗挽きそば」とは趣が異なる。
むしろそば切り 蔦屋やそば切り 山親爺の「手挽き」に似ている。
天笑の「粗挽きそば」は、その濃厚な穀物感と対をなす「軽やか」で「繊細」「たおやか」な食感が並置されている。
それに対して、この店の「粗挽き」は天笑のそれより少しだけ太く、つなぎが入っている分だけ比較的「丈夫」な食感だからだ。
異なる言い方をすれば、「コシ・喉越しの良さを捨ててでも」か「コシ・喉越しを完全に捨ててまでは…」の違いである。

そば切り からに 粗挽き1-1



蕎麦は水準が高く、満足感を抱かせてくれる。
そして、少し刺激的でもあり、嬉しいばかりだ。
しかしいくら蕎麦を単独で味わうことを「メイン」とする私でも、そうしてばかりもいられない。
蕎麦つゆと鴨椀の「つゆもの」とも合わせてみる。
通常の私にとっては、「サブ」でしかない食べ方。
だがそんな男にとっても、この店での場合はここからが「メイン」であった。

・蕎麦を蕎麦つゆへ

蕎麦つゆはやや辛めで、スッキリとした味わいのもの。
かえし醤油と節類の旨味が良く、「細切り」と同様に凛々しい印象である。
なお、関西に多い「甘い」「甘め」のつゆが苦手な(というか、幼少期からその種の味わいに慣れ親しみ過ぎて、もう食傷気味なのだ)私には、嬉しい味わい。

いざ、蕎麦をつゆにつけて頂く。
つけるのは、3分の1かそれより少ない程度だけ。
(…)
旨い。
いや、それ以上に相性が良い。

細切りと粗挽きのどちらの蕎麦もつゆの旨味を映し出す。
そしてつゆもまた、蕎麦の香りや旨味を引き立てる。
おお。この相補性よ。
醤油や節類の旨味を味わった後、立ち上ってくる「細切り」と「粗挽き」各々の旨味と香りよ。

蕎麦単体を味わうのであれば、他の蕎麦屋でもっと良いものに出会えることも少なくないのかもしれない。
しかし蕎麦つゆと共に味わうのであれば、他の蕎麦屋ではそうは出会えない美味しさがある。

・蕎麦を「鴨椀」へ

この日、最も気に入った組み合わせ。

鴨(鴨脂)の風味→かえし醤油と和出汁の旨味→蕎麦の香り・旨味

と三段階に渡る味わいの変遷。
これがまた、実に味わい深い。
また、もしこの鴨脂が多めで甘めだと、単品としての美味しさは良いが、蕎麦と共に食すにあたってはややクドくなっていたかもしれない。

鴨汁で蕎麦を頂くのは、本来私はそれ程好きでもない。
しかしここのものは、実に気に入ってしまった。


確信する。
ここの蕎麦は、単独でも美味しい独立独歩の蕎麦。
しかし「蕎麦つゆや鴨椀があってこそ、初めて完成する」。
白濁としたいわゆるポタージュ系の蕎麦湯が投入され、醤油と節類の旨みがベースアップされた蕎麦つゆを飲みつつ、そんな風に考えた。
なお、この蕎麦湯割りもまた、キレもコクもある絶品であったことは言うまでもないであろう。
〆の一杯として最高だ。




お客さんが店を後にしようとすると、若い女将さんはお客さんに先立って引き戸を開けられる。
出入り口が危ない(転倒しやすい)のでお気をつけくださいと、案内をされる。
他のどんな作業よりも、それを優先される。
初訪問と思しき全てのお客さんに。
そうか。
「〆の一杯」は蕎麦つゆの蕎麦湯割りではなく、この人の思いやりだったのか。


(訪問時、2010年1月)

○ そば切り からに

住所:大阪府大阪市福島区鷺洲2-11-26(地図
営業時間:11:00~14:00 17:00~20:30
定休日:木曜日と第4水曜日
駐車場:無し
備考:禁煙

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COMMENT

なぜか 玄を読みそびれていました。

からにの女将日曜だけなんでしょうか?
足りなかった和みが加わりますね

あちらの酒は 生酒系で 多く飲めないものには辛い
飲めるけれども 飲まないの気持ちは 今の所
理解が出来ないが 美味しい蕎麦のためには
飲まない方がよいときが 多いかも・・

どちらも すぐにでも行きたい書き口で
罪なお方でございます。

そういう関連の方なんだろうかと・・・?
2010/03/17(水) 23:39:43 | URL | 辛汁 #phHF4o9M [Edit]
辛汁さん こんばんは

>からにの女将日曜だけなんでしょうか?
足りなかった和みが加わりますね

え?そうなのですか?
私はまだ日曜日に一度訪れたきりなのでわかりませんが、あの方もからにの「美味しさ」の一つだと感じられました。

次回に訪問するのがいつになるかはわかりませんが、また日曜日にしよっと…。

>飲めるけれども 飲まないの気持ちは 今の所
理解が出来ないが 美味しい蕎麦のためには
飲まない方がよいときが 多いかも・・

制約があって飲めないときを除き、私の場合は酒を飲むよりも酒に飲まれたくなることがあり、そうなると当然味覚も鈍くなり、さらにはせっかく頂いた蕎麦の記憶も曖昧になるからです。
いけませんね。
だから、きちんと蕎麦とお酒の両方を等しく味わえる人たちが本当に羨ましい限りなのです。
また、たとえばそういう風に楽しみ得る際の辛汁さんは、やはり飲まない時とはまた別の蕎麦の美味しさをご存知なのでしょうね。
「お酒がプラスに作用する際の、蕎麦への感じ方の変化」とでも申しましょうか。

>そういう関連の方なんだろうかと・・・?

蕎麦と同様、そういうことに関しても「生粋の」ド素人なのです…。

ではでは
2010/03/19(金) 00:07:41 | URL | 京瑠璃 #3KrfhFaQ [Edit]
今晩は。
私はお蕎麦というだけで食べたく思い、打ち方には拘らないのですが、美味しそうな粗挽き蕎麦です。

私の好きな「山の神」や「一如庵」などに通じる所があるのでしょうね。
2010/03/19(金) 22:48:31 | URL | エノさん #N1aTFCKA [Edit]
一如庵…
おはようございます

一如庵は春知と並び、私にはもうそのロケーションだけでそそられる蕎麦屋です。
仮にまったく同じ蕎麦が街で出されても、同じような気分にはなれないであろうと想像させられますよ。
その地理的条件により、私には両店ともにハードルが高いのですが、故に恋焦がれてしまう蕎麦屋です。
山帰来もそうかもしれませんが、ロケーションごと味わいですね。






2010/03/20(土) 10:38:39 | URL | 京瑠璃 #3KrfhFaQ [Edit]

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蕎麦、中華そば、側(そば。つまり私たちの身近にあるもの)等、ソバ全般に関して。

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